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ミステリーから世界を読む

ミステリー評論家でもある稲塚由美子(「隣る人」工房)が厳選した世界で出版されているミステリー小説の書評。

ある事件が起こる。その事件の背景には、登場人物たちが生きる社会状況や歴史が色濃く反映している。ミステリーを通して、わたしたちがいま生きる社会(世界)を読み解いていく。

 

  • 2024年2月3日

『渇きの地』(オーストラリア)

オーストラリア発、ジャーナリスト出身である作者のデビュー作で、英国推理作家協会賞最優秀新人賞を受賞したサスペンス・ミステリー…その土地の風土が人間の精神を規定するのだと、作者は、土地の描写と共に、そこで育(はぐく)れた住民感情や倫理観を土台に物語を紡ぐ…

  • 2024年2月3日

『夜間旅行者』(韓国・ベトナム)

初紹介の韓国発サスペンスミステリー…英国推理作家協会賞の最優秀翻訳小説(トランスレーション・ダガー)賞受賞作である。アジア圏のミステリー作家の受賞は、ユン・ゴウンが初めて…誰もが感動でき、誰もが悲しめる災害の傷痕、痕跡が見られるのが災害ツアーの売りだが、それは、時間が経てば新鮮味はなくなり、商品として成り立たなくなる。だから、人為的に災害を起こしてまで商売として成り立たせようという資本主義社会の欺瞞(ぎまん)も冷徹に描かれる…

  • 2023年12月2日

『狙撃手ミラの告白』(旧ソ連/ドイツ/アメリカ・ウクライナ)

ケイト・クインの”近代史もの”第四弾は、前三作『戦場のアリス』『亡国のハントレス』『ローズ・コード』と同様、第二次世界大戦時の史実が忠実に織りこまれた、壮大な歴史サスペンス・ミステリーである…今回も女性蔑視に抗い、自分の人生を生きようともがく女性が主人公だ…

  • 2023年12月2日

『夜に啼く森』(アメリカ)

アメリカの女性作家リサ・ガードナーが、誘拐・監禁・強姦事件を描いた衝撃のサスペンス・ミステリー『棺の女』(ふぇみん紙・2017年1月25日号)。その事件の被害者にして生還者が、本書の主人公フローラ・デインだ…シリーズ5作目の本書は、最新作にして完結編である…

  • 2023年10月9日

『アオサギの娘』(アメリカ・フィリピン・日本)

『ザリガニの鳴くところ』(ディーリア・オーエンズ作、2020年、早川書房刊/We226号掲載)に続き、海と陸とを分かつ湿地に生きる女性を描いたサスペンス・ミステリーが翻訳された。本書は、大学で美術学修士号を取得したという作者のデビュー作…数々の危険を乗り越えて、父の死の真相を探り出す娘とその家族の再生を描いて秀逸だが、まず何より野生の鳥類や沼地の動植物についての詩的な描写がみずみずしく美しい…

  • 2023年10月9日

『ガーナに消えた男』(ガーナ)

ガーナ発、現実にも多発するインターネット詐欺を追う新米女性探偵の活躍を描く冒険ミステリー。2021年アメリカ私立探偵作家クラブ賞新人賞受賞作…ガーナがアフリカにおけるインターネット中心地だと聞いてもピンとこない人は多いと思う。しかし同地は、メールやショッピングサイト経由でのオンライン詐欺多発地である…