言葉、音声、画像、動画等を駆使し、個人に光を当て、個を大切にした記録活動。表現行為を通して、時空をまたぎ、人とつながり、人と人とをつなげていくことを探求しています。

ルーシー・フォーリー著

唐木田 みゆき訳

早川書房 2310円(税込)

イギリス発、2020年英国推理作家協会(CWA)賞ゴールド・ダガー賞候補作の本書は、アガサ・クリスティの名作『そして誰もいなくなった』を想起させる趣向の心理サスペンスミステリーである。

物語の舞台は、アイルランド沖、泥炭と湿地に覆われた孤島。花嫁はオンライン雑誌を立ちあげた女性起業家ジュール、花婿はテレビで自分のサバイアバル番組をもつハンサムな売れっ子ウィルという、今をときめく有名人カップルの結婚式が行われるのだ。招待客は、ウェディング・プランナーの趣向により、「夜、舟で島に渡るように」と指示され、今にも雨が降りそうな荒れた天気の中、それぞれが島に渡ってきた。

結婚式場と招待客全員が宿泊する島唯一の建物「フォリー館」では、湿地から切り出した泥炭を干して暖炉にくべる。その独特のいぶした土のにおいもまた独特である。外には湿地が広がり、夜は漆黒の闇となり、誤って足を踏み入れればずぶずぶとはまり込んでしまう。この島には、貪欲と悪運と邪悪の象徴とされてきた歴史があった。

だが、そもそも、そんな孤島での格安パーティーのプランに、なぜジュールは乗ったのか。結婚式の一切を請け負ったウェディング・プランナーのイーファと世話人のフレディだけが住む孤島の結婚式プランに。さらに三週間前、花嫁のもとに「ウィルと結婚するな」という警告の手紙が届いていたにも関わらず。

最初の異変は華やかなパーティーの真っ最中に起こった。島は激しい嵐に見舞われて停電し、その間にウェイトレスが、外の暗闇の中で血だらけの死体を見たというのだ…。

ジュールと花嫁付添人であるジュールの妹オリヴィア姉妹の秘密、過去の遺恨、人の隠された悪意や鬱屈、嫉妬が、登場人物6名の一人称「わたし」「おれ」「ぼく」で次々と入れ替わって描かれ、不穏な雰囲気が醸成されていく。

オリヴィアは、自傷癖があって終始陰鬱な表情だし、花嫁の友人と夫が友人だというので招待されたハンナは、花嫁が自分の夫に()れ馴れしいのを不審に思っている。一方の花婿付添人のウィルの親友ジュンノもまた花婿と対照的な自分の地味さを卑下し鬱屈していた。誰もが憧れるカップルへの祝福の裏には、さまざまな思惑が潜んでいた…そして婚礼の夜、ついに凄惨な事件が起こる。

誰が殺し、誰が殺されるのか? 

暴風雨に閉ざされた島での群像劇を、時系列を交錯させ巧みに描き、ラスト、過去の悪行がすべて(あら)わになり、すべての伏線がきれいにつながって興味は尽きない。

特筆すべきは、いい大人が、集まると度が過ぎた悪乗りを始める英国パブリックスクール文化を(いま)だに持ち続ける花婿の友人たちの嫌味な人間性。男性社会の中での男性同士のマウンティングの実態と空虚さを浮かび上がらせ、その息苦しさが胸に残る。こんな実態を事件の背景としてさらりと折り込んでいるあたり、作者が、現代版アガサ・クリスティと評された所以(ゆえん)なのだろう。

稲塚由美子(ミステリー評論家)

「ふぇみん」・2022年1月25日号初出