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ミステリーから世界を読む

ミステリー評論家でもある稲塚由美子(「隣る人」工房)が厳選した世界で出版されているミステリー小説の書評。

ある事件が起こる。その事件の背景には、登場人物たちが生きる社会状況や歴史が色濃く反映している。ミステリーを通して、わたしたちがいま生きる社会(世界)を読み解いていく。

 

  • 2025年2月6日

『破砕』『破果』(韓国)

ミステリー界でも、日本翻訳ミステリー大賞を受賞した、老人で女性で殺し屋が主人公の異色サスペンス『破果(はか)』と、その前日譚(たん)『破砕(はさい)』は出色の出来。2冊同時に紹介…高齢であること、女性であることは日韓を問わず「弱み」のままだ。「高齢×女性」ならなおのこと。弱者に配慮をと言いながら、その一方で「生産性がない」「有用でない」と切り捨てる社会の眼差しは存在し…老いの孤独と生きる意味を考えさせる胸熱のミステリー…

  • 2025年1月26日

『ほんのささやかなこと』(アイルランド)

アイルランドが見て見ぬふりをしてきた闇を、ささやかな日々の暮らしのちょっとした「違和感」で描き出す心理サスペンスミステリー。英国ブッカー賞候補作…2002年、日本で公開されたアイルランド・イギリス合作映画「マグダレンの祈り」で世界を震撼させたアイルランドの「マグダレン洗濯所」事件。本作はこの現実の事件を元にしている…

  • 2024年12月8日

『狂った宴』(イギリス・日本)

ロス・トーマス 著 松本剛史 訳 1,100円 (税込) 新潮文庫 新潮文庫の「海外名作発掘」シリーズで、往年の巨匠ロス・トーマスの未訳作品が翻訳出版された。しかも、今や戦争指南にまで手を出す「広告代理店」が、独立間近なアフリカの国家元首選挙に暗躍(あんやく)するという騙(だま)し合いミステリーであ […]

  • 2025年1月29日

『邪悪なる大蛇』(フランス)

フランス発、もし、凄腕(すごうで)の女殺し屋が、認知症を患ったら…そんなテーマのサスペンス・ミステリーが出た。しかも、『その女アレックス』で世間の度肝を抜いた作家、ピエール・ルメートルの最後のミステリーだ…誰しもに来る「老い」が、凄腕の殺し屋に訪れ、それが老害となって、死体の山ができていく話だが、ここまで振り切ってしまえば爽快(そうかい)でしかない…

  • 2024年10月6日

『夜明けを探す少女は』(アメリカ・沖縄/日本)

アメリカ発、MWA(アメリカ探偵作家クラブ)賞YA(ヤング・アダルト小説)部門の最終候補作ミステリー…白人警官が黒人を拘束する際の差別的暴力が問題となった「黒人の命も大切だ(BLM/ブラック・ライブズ・マター)運動」を背景に…

  • 2024年10月2日

『偽りの告白』(オーストラリア・ベトナム)

オーストラリア発、ベトナム移民に向けられる白人からの差別の根深さゆえに、「差別がないふり」をして生きるしかないベトナム移民社会の人々を活写するミステリー…作者はベトナム移民2世の女性作家で、「1990年代のオーストラリアでアジア人として育つのはどういう感じがするか」をテーマに物語を紡ぐ…