言葉、音声、画像、動画等を駆使し、個人に光を当て、個を大切にした記録活動。表現行為を通して、時空をまたぎ、人とつながり、人と人とをつなげていくことを探求しています。

ジョン・ヴァーチャー著

関麻衣子訳

早川書房・1980円(税込)

米新鋭が描く根深い差別

BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動で揺れたアメリカの新鋭作家デビュー作。根深い人種差別と、抑圧される人々の怨嗟を描き出した犯罪小説サスペンス・ミステリーである。

本書の原題は「五分の三」。二百年以上も前のアメリカ合衆国憲法で、黒人は白人の五分の三の価値しかないと定められていた歴史の数字だ。この条項は既に廃止されているが、今なおアメリカ社会では、人種差別と白人至上主義が根強く残る。

舞台は一九九五年のピッツバーグ。黒人男性への警官の暴行から起きた「ロサンゼルス暴動」の三年後、錆びついた(ラストベルト)町のゴミ箱からは、饐えたビールの臭いが漂う。人種間の対立が緊張状態にあるのは、今も変わらない。 

主人公は、黒人の血が流れているという秘密をひた隠しながら生きる白人青年ボビー。物語は、彼の親友アーロンが、三年ぶりに刑務所から出所した日に始まった。迎えに行ったボビーが再会したアーロンは、徹底した白人至上主義者となって、黒人をゴミのように扱った。

ある日、アーロンは些細なことでモメた黒人男性にキレたあげく、瀕死の重傷を負わせてしまう。ボビーは、アーロンの逃走を助ける羽目になり、このままでは共犯として警察に捕まる。アメリカの警察は、奴隷を監視する必要から生まれたに等しく、そこには人種差別が構造的に組み込まれているという。「黒人であること」が罪とされるのだ。ボビーは、アーロンにも警察にも、「血の秘密」を悟られないかと怯え続けるのだった。そんな時、死んだはずのボビーの父親が姿を現すが、父は、アーロンが瀕死の重傷を負わせた黒人男性の担当医となっていた。果たして事件の行方は?

ミステリーとしての興趣もさることながら、登場人物の造形がいい。ボビーやアーロンだけでなく、貧困に苦しむアルコール依存症のボビーの母親、現在の妻の流産をきっかけに結婚生活が破綻した父親もまた、それぞれがより良く生きようとして、だが断ち切れない呪縛に苦しみながら生きている。

唯一の希望は、ボビーの職場の同僚女性ミシェルの存在。ボビーの出自の秘密を親身に聴いた後、「黒人らしく白人らしくなんて考え方がバカらしい」とさらりと言ってのける。最高だ。

稲塚由美子(ミステリー評論家)

「産経新聞」2021年3月28日初出