リサ・ガードナー 著

満園真木訳

1,249円+税 小学館文庫

アメリカの女性作家リサ・ガードナーが、誘拐・監禁・強姦事件を描いた衝撃のサスペンス・ミステリー『棺の女』(ふぇみん紙・2017年1月25日号)。その事件の被害者にして生還者が、本書の主人公フローラ・デインだ。

生還したからといって元の生活に戻れはしない。彼女の壮絶なトラウマとサバイバルは『完璧な家族』(ふぇみん紙・2022年5月25日号)(つぐ)みの家』へと続き、シリーズ5作目の本書は、最新作にして完結編である。事件から7年後、生還のその先にようやく踏み出そうとするフローラの姿に心が震える。果たして心の平安は訪れるのか。

物語は、ジョージア州アパラチア山脈の山道で、女性の遺骨の一部が発見されて始まる。15年前に行方不明になった女性で、DNA鑑定の結果、フローラが誘拐・監禁・強姦された犯人ジェイコブ・ネスの初期の被害者とみなされた。

犯人ジェイコブの捜査に関わったFBI特別捜査官キンバリー・クインシー、ボストン市警殺人課の女性刑事D・Dウォレン、そしてD・Dの秘密情報提供者であるフローラらが現地に召集される。地元の保安官らと共に、古い白骨遺体のまだ見つかっていない残りの骨を探すはずが、さらに三つの新たな白骨遺体が発見される。骨盤から全員女性と判明した。

連日、必死に捜査を続ける捜査員たちは、現場近くの小さな町ニッシュの町長夫妻が経営するホテルに泊まる。そこには、脳損傷で口がきけず、字も書けない少女がメイドとして働いていたが、町長夫人の姪だと紹介された彼女はどう見てもヒスパニック系だ。さらに過去には何人もメイドが消えていたことが判明した。

不法移民誘拐、臓器・人身売買、性奴隷…幾重にも重なった恐るべき犯罪の背景には、町ぐるみで隠ぺいしなければならない過疎の町の哀れな実情と、驚愕の真実があった…。

異常犯罪者のことは自分が一番よく分かる、とトラウマに苦しみながらも犯罪者の行動心理を読む生還者フローラと、女性刑事D・Dら、女性たちのシスターフッドを描いたシリーズには、大いに勇気づけられる。

さらに、今回特筆すべきは、脳損傷による言語障害のため言葉が話せず、学校にも行かせてもらえずメイドとして働かされていたボニータという少女の人物造形である。文中太字で彼女の心情が記されているが、虐待を受けても心は屈しない強い意志の持ち主だ。

「必ずあの男に報いを受けさせる」。こんな言葉を心に抱き、事件解決のため、D・Dに、自分の見聞きしたことをどうにかして伝えようとして伝えられず悶々とする。一方でD・Dもまた、なんとか少女の言葉を聞こうとする。エピローグ、二人は家族になる逸話が明かされて、心温まる。

なお、誘拐・監禁・強姦事件を生む土壌として、女性を男性の従属物としてきた歴史が今でも根深く巷に生きていること、そして、日常の中でも、女性の人権と尊厳が蹂躙され続けている現実があるということを、作者はシリーズを通じて描き続けている。

稲塚由美子(ミステリー評論家)

 「ふぇみん」・2023年11月25日号・初出