言葉、音声、画像、動画等を駆使し、個人に光を当て、個を大切にした記録活動。表現行為を通して、時空をまたぎ、人とつながり、人と人とをつなげていくことを探求しています。

『マイ・シスター、シリアルキラー』(ナイジェリア)

オインカン・ブレイスウェイト著

粟飯原 文子訳

1700円(税別) 早川書房

アフリカ発サイコ・スリラー・ミステリー。ナイジェリア生まれの女性作家の長篇第一作で、世界的なミステリー文学賞であるアンソニー賞最優秀新人賞を受賞している。

舞台は、ナイジェリアの大都市ラゴス。高層ビルが立ち並び、高速道路が縦横に走るその隣に、大規模なスラムが雑然と広がる。

その景色からある一軒の近代的な家族の暮らしに焦点を合わせると、そこには父権を行使した、理不尽な暴力が妻や娘たちに降り下ろされていた…。そんな背景が通奏低音のように響く中、高層ビル街もスラム街も軽やかに駆け抜ける姉妹が登場する。看護師のコレデと、誰もが息をのむ美しさを持つ妹アオヨラである。

だが、姉妹には誰にも言えない秘密があった。妹がシリアルキラー(連続殺人犯)なのだ。

今日もコレデのもとに、妹から電話がかかる。
「ねぇ、コレデ。殺しちゃった」

付き合い始めて一か月なのに、恋人フェミの心臓に父の形見のナイフを突き立ててしまったという。駆けつけたコレデは、現場のバスルームを漂白剤で磨き上げ、死体をシーツにくるみ、車のトランクに積み込んだ。これで三度目だ。妹が起こす面倒にうんざりしながらも殺人の後始末を引き受けてしまう、地味で真面目で孤独を抱える姉コルデ。

なぜ、どうして、妹は殺人を繰り返し、姉はその後始末を引き受けるのか?

さらに、コルデが密かに想いを寄せる医師タデまでが、妹に会ったとたん夢中になった。殺人を犯したばかりだというのに、軽率な行動をする妹にいらいらがつのる。でも妹はタデのことを「あの人、薄っぺらよ。かわいい顔にしか興味がない!」と言い放つ。妹の方が、人間がいかにルッキズムに支配されているかを見抜いているという皮肉も効いている。

そして、父がなぜ死んだのかは明かされず、ただ殺人には必ず「父の形見」のナイフが使われるとだけ語られる。この社会で、娘の売買が親族間ですすめられ、さらに母親もその価値観を内面化し、娘を守らない過去も明かされる。「夫が三回離婚だと言えば、離婚だ」とのエピソードも登場する。

連続殺人犯の妹は、男権社会そのままのひどい父親による幼児体験のなれの果て。繰り返される殺人と、それをごまかす姉との共依存関係と葛藤、機能不全家族が抱える闇、暴力の記憶と連鎖、ジェンダー不平等…負にまみれた人生を姉妹共に生き抜き、愛憎劇を繰り広げながらも、シスターフッドとして助け合う姿に大いに共感する。

また、スマホを持った若者の間で文化はグローバル化している現在、本書のテーマはナイジェリアだけでなく、どこの国でもあり得る普遍性を持つ。もちろん、日本であっても。

それでもなお作者は、近代化されたようで古い伝統的な因習が遺るナイジェリアの様子を生き生きと伝えていて、非常に興味深い。ミステリーの新境地といっていい。

稲塚由美子(ミステリー評論家)

「ふぇみん」
2021年5月25日号初出