ヨルン・リーエル・ホルスト 著

中谷友紀子 訳

1080円+税 小学館文庫

ノルウェー発、作者が実際に現役警官だった時代の未解決事件(コールドケース)が下敷きの警察小説ミステリーである。

声なき人の、無惨に断たれた人生を忘れまいとする〈警部ヴィスティング コールドケース・シリーズ〉は、第1作『カタリーナ・コード』で、英訳された北欧ミステリー年間最優秀賞(ペトローナ賞)を受賞。以来シリーズ4作目となる本書が最終作だという。

ラルヴィク警察管内では、女性の失踪、殺人事件が起こり、夫が第一容疑者とされていた。そんなある日、警部ヴィスティングの自宅のポストに差出人不明の封書が届く。中に書かれていたのは、「12‐1569/99」の数字のみ。その数字は、第12管区内で、1999年に起きた1569号事件を意味していた。

その年、17歳のトーネが行方不明となり、2日後に絞殺体で発見された。彼女の体内から検出された精液のDNA型が元恋人ダンと一致して彼は逮捕され、禁固17年の刑に服していた。だが、彼は一貫して無罪を主張していた。

さらに、第2の手紙が届いた。「11‐1883/01」。17歳の少女パニッレが強姦され殺された事件だ。犯人ヤンは逮捕され、殺人罪で有罪となっていた。

過去2つの少女強姦殺人事件は、なぜヴィスティングに、今知らされたのか? 不審に思いながらもまず過去の調査資料を調べ始めるヴィスティングは、パニッレ事件の犯人ヤンが、トーネ殺害事件の関係者である事実に突き当たる。当時の捜査で、なぜヤンは容疑者から外されたのか。匿名でもたらされた手紙の目的は何なのか。

ヴィスティングは投函した人物の意図を推し測りながら、過去2つの事件を再調査していく。そしてたどり着いたのは、警察内部まで無傷ではいられない驚愕の事実だった…。

過去の事件が冤罪かどうか二転三転する展開と、現在の事件の捜査が並走していく。確固たる証拠とは何か。先入観に囚われていないか。現在の事件でも冤罪となり得る恐れを感じた彼は、より深く洞察する。

そして現在、過去のトーネ事件で服役していたダンは出所し、パニッレ殺害事件の犯人ヤンは獄中死していたことが分かった。過去に解決済みとされた事件は、ヴィスティングの思惑を外れ、想定外の様相を見せる。

作者が現役警官だった時代、捜査に当たって深い心の傷を負ったという事件を下敷きにしただけあって、聞き込みや古い捜査資料の当たり方など非常にリアルだ。地味にコツコツと捜査を進める同僚警官らの群像劇もいいし、若い女性警官らが有能で、スマホやスマートメーターの電力使用量からの行動分析には驚かされた。DNA鑑定など、当時はできなかった新たな鑑定も技術的に可能になり、過去が動き出す。

人が人を裁く仕組みが存在する限り、冤罪は起こり得る。時の流れや不当な力の介入で失われた真実に、愚直なまでに正当な光を当てようとする主人公の姿に胸が熱くなる。

稲塚由美子(ミステリー評論家)

「ふぇみん」・2023年7月25日号・初出