そして捜査の途上、平穏に見えた一家の凄まじい過去が浮かび上がった。
始まりはロクシーが11歳の時、妹のローラは8歳で、弟マニーは4歳。それぞれの父親は異なり、マニーの父ヘクターは母と大喧嘩して出て行った。その後、母は泣くか酔っぱらうかで、まったく子どもたちの世話をしなくなった。ネグレクトで通報され、母から引き離され、姉妹は同じ里親マザー・デルの元に、弟は別の里親に預けられた。
里親マザー・デルの家もまた安心安全ではなかった。弟のマニーの里親は非常に愛情深くマニーに接し、反対に、姉妹の里親マザー・デルは、いわゆる里親を生業にしており、最低限の食事を与えるだけで、すべて里子たちが家事労働をこなし、赤ちゃんを何人も預かって、その世話も姉妹が担わされた。仰向けに寝られないほど狭い部屋で、姉妹は寄り添い、少ない睡眠をむさぼった。
それに加え、同居する先輩里子たちからのイジメがあった。前からいる子どもたちも、どうにか生きのびるために必死なのだ。嫉妬や羨望もないまぜになってイジメは次第にエスカレートしていく。里親はまったく無関心で、何もしてくれない。その生業里親は、最後にやっと告発されたが、現実には、法の網をかいくぐって貧困ビジネスをする者が後を絶たない。
そして物語は、人生に絶望し、アルコール中毒でネグレクト親の烙印を押されたロクシーの母が、アルコールを断ち、看護師として働いて裁判所から更生したと認められる日が来て急展開する。
郊外のアパートで親子4人で再び暮らせるようになり、壮絶なイジメをする里子たちと別れられてほっとしたのも束の間だった。母に恋人ができ、街中にある彼の家に引っ越すことになる。ただ最悪なのは、イジメっ子と同じ学校にまたなってしまったことだった。誰にも言えない性行為の強要が過去にあり、あるいはローラの舞台女優になるという夢も潰された。平穏な日常が続いているように見える学校や家庭の中に犯罪や不幸の種があり、その不穏さに誰も気がつかず、気づこうともしないのも変わりなかった。SOSを発しても、大人はそれを受け止めない。個々が抱える問題の本当のところは実は誰も知らず、知ろうともしなかった。フローラがD・Dに向かって叫ぶシーンがある。
「里親の家にいる子よ! 制度の犠牲者よ! 刑事に話をすると思う?」と。
妹も弟も私がきっと守る、と思いつめたロクシーだったが、妹ローラは女子ギャング団の仲間に入り、それでイジメられることから自分を守るというのだった。
絶望と孤独は、子どもの心の奥底に沈殿し、一生彼女を苦しめる。受難の子どもの心理と状況をリアルに描き出して胸が痛い。
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