それにしても、意外な犯人像の設定、意外な動機の設定には舌を巻く。同じベストセラー作家のカリン・スローターが、リサ・ガードナーに、「刺激的な小説は読者が曲がると予想した時にはねじれ、ねじれると予想した時には曲がる。これが彼女を最高に称賛する言葉よ」という賛辞を寄せているが、大いに賛同する。
お伽噺は愚かで残酷な現実の写し鏡でもある。それでも作者は、地を這って生きる人間特有の、かけがえのないものへの慈しみを全編にわたって紡ぐ。そのせめぎ合いの物語に心は引き裂かれ、やがてただ哀しくなるのだ。「寄る辺なき時代を生きる」子どもたちの心に、どうか目を凝らしてやって欲しい。
なお、家庭内でネグレクトや虐待が起こる土壌、誘拐・監禁・強姦事件を生む土壌として、女性を男性の従属物としてきた歴史が今でも根深く巷に生きていること、そして、日常の中でも、女性の人権と尊厳が蹂躙され続けている現実があるということを、作者は全編を通じて感じさせている。こうした価値観が人々の血肉になっていて、問題だと思わずにいることが問題なのかもしれない。
さてラスト、サバイバー同士の連帯でゆるやかにつながって再生しようとするシスターフッドたちに希望が見えて素敵だ。
リサ・ガードナー「Ⅾ・Ⅾ・ウォレンシリーズ」長編リスト(*中編、短編をのぞく〉
1 Alone(2004)
『あなただけに真実を』前野律訳(ヴィレッジブックス)
2 Hide(2007)
3 The Neighbor(2009)
4 Live To Tell (2010)
5 Love You More(2011)
6 Catch Me (2012)
7 Touch & Go (2013)
8 Fear Nothing(2014) 『無痛の子』満園真木訳(小学館文庫)
9 Find Her(2016) 『棺の女』満園真木訳(小学館文庫)
10 Look For Me(2018) 『完璧な家族』満園真木訳(小学館文庫)本書
11 Never Tell(2019)(小学館文庫、4月刊行予定)
12 When You See Me(2020)
巻末解説として初出(小学館・2022年2月9日・初版第一刷発行)
いなづか・ゆみこ/ミステリー評論家
隣る人」工房https://tonaruhito-kobo.com