ジェフリー・ディーヴァー著

池田真紀子訳

文藝春秋・2500円+税

ネット世界の罠を描いて切れ味抜群の新シリーズ

〈四肢麻痺の科学捜査官〉リンカーン・ライムを生んだ作者が、父親にサバイバル術を叩きこまれた〈懸賞金ハンター〉コルター・ショウを初登場させた。

懸賞金ハンターが捜すのは、迷子の子どもや認知症の高齢者から逃亡犯まで事件性の有無は関係ない行方不明者。報酬は行方不明者の家族が出す懸賞金だ。彼の武器はサバイバル能力と可能性のパーセンテージ。常に数字化して、優先順位の高いものから当たるやり方で、警察の制限ある捜査とは一線を画し、多くの事件を解決した。

本作で描かれる連続殺人事件の発端となるのは十九歳の女子学生ソフィー。シリコンバレーのカフェに立ち寄って以降の消息が分らなくなった。事故か事件か誘拐か? だが身代金の要求はない。彼女の父親がなけなしのお金を用意してコルターに捜索を依頼してきた。動きの鈍い警察に悩まされながら捜査を続けるコルターは、サンノゼ・コンベンション・センターで行われる世界規模のゲーム・ショーに紛れ込んで、彼女の失踪が、ある配信ゲームに関連していることを探り出す。

『ウィスパリング・マン』というゲームを模倣して監禁する犯人〈ゲーマー〉。刻々と死の迫る被害者たちの居場所を突き止め、彼らの命を救うためにコルターは力を尽くす。犯人の痕跡を追ううち、いつしかシリコンバレーのゲーム業界の深層へと分け入っていく。

現実のアメリカ大統領選挙でもメディアの印象操作や偏向報道、外国勢力の介入疑いなどが報道されている。GAFAに牛耳られるインターネットの世界では、無料の配信ゲームなど個人情報の草刈り場となり、人々の思想信条さえも思うままに誘導できてしまう…犯人は?単なる愉快犯?あるいは何か隠された動機があるのか…。

ビデオゲーム業界最先端の活写は興味が尽きない。片や、シリコンバレーの虐殺された原住民の末裔でもあるというコルター。自宅にはめったに帰らず、キャンピングカーでアメリカ中を旅しながら、その今風の巨大な壁に挑む昔気質。現代版ドン・キホーテのようでカッコいい。ドンデン返しの切れ味も抜群のサスペンス・ミステリー新シリーズの登場である。

稲塚由美子(ミステリー評論家)

「産経新聞」2020年11月15日初出